Vol.34 生理さん、ファイナルステージに向かう
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生理がこない。妊娠ではない。身に覚えがない。
となると、なんらかの婦人科系疾患の可能性もあるけれども、おそらくあれである。生理さんがベテランの域に到達し、次のステージに向かわれたということなのである。
わたしの生理さんは規則正しくて、お月様の満ち欠けのようにきっちりといらしたものである。それがここ数年、ちょっとずつ早まったり遅まったりしていて、わたしの年齢を鑑みると、もしかしたら生理さんが別のステージにうつったのかもしれない、とこちらもある種の覚悟はあるにはあった。けれども今後こそほんとうに、ほんとうに突然ぱたりと来なくなって、お月様が満ちたり欠けたりまた満ちたりまた欠けたりその間にも全然いらっしゃらなくて、どうしたものかと心配になったのであった。
一度、あ、いらっしゃるのかと思ったときがあった。なんとなく、そんな予兆があった。真面目に基礎体温をはかったりしていないので数値としてはわからないけれども、体が生理に備えているのを感じた。
生理さんがいらっしゃる予兆に伴う愁訴、というものはひとそれぞれいくつかあると思われるのだけれども、わたしはとくに「眠れなくなる」ということが辛いのである。どれだけ日中動き回ってくたびれていて、もう心から眠りたい時であっても、コーヒーをがぶ飲みしたかのように眠られなくて、頭が冴え冴えしたまま布団をかぶって数時間をやりすごす夜と、さえない昼を繰り返し、やっと生理さんがいらしたその日、泥のように眠るというのがここ数年の常であった。
先日、突然に眠れなくなって、夜中に目をひかひかさせながら、お、そろそろいらしゃるのか、と備えておったのに、数日で睡眠不足期は解消されて、生理さんは訪れなくて、その時は、あれ、違ったのかと思い、安眠をむさぼった。のであったが、あれはやはり予兆であったのではないだろうか。体は準備しようとしていたかもしれないが、準備しきれずに生理さんは来訪を諦めたのかもしれない。
生理さんの来訪は、面倒くさかったけれども。でも自分の健康を診るきっかけでもあった。過度のダイエットや、仕事で思い悩んだりするとすぐに遅れて、もっと自分をいたわれと教えてくれた。甘いものを食べすぎたら、血がどろどろになった。トイレで力をいれて経血を出しきり、コントロールするという膣トレは意外に楽しいのだけれど、生理さんがいないとできない。何より、営みが健気であった。旅行があるからこの日は避けていただきたいとか、そもそもわたしがわたしの血を未来に残したいと思っているかどうかとか、そういうこちらの都合も意志もすべてお構いなしではあったけれども、生理さんは健気に働き続けていた。どれだけ忘れていても、全然歓迎していなくても、生理さんは無遠慮にやって来て、わたしはわたしでちょっと呆れながらも、真面目な仕事っぷりだなと思ったりした。
久しぶりに生理さんが訪れた。一体何回分なのかというぐらいに重たくて、はじめての生理を思い出した。腰もお腹も重たくて、貧血で倒れそうになるというのに、血が出続けて、こんなのをこのあと何十年も耐えていられないと思った。そういう生理さんが久しぶりにいらした。痛い。重い。立っていられない。たぶんわたしの体は、もう生理さんをお迎えするために月の満ち欠けごとに準備するのは困難になったのだろう。そんな気がする。わたしを支配し、困らせ、振り回し続け、でもとても大事なホルモン嬢がわたしの中から減ってしまったのだろう、そんな気がする。
これは生理さんが、次のステージに行ったということなのだろう。早くなったり遅くなったりというセミファイナルを経て、ファイナルステージに行こうとしているのだ。それが終わると、もう生理さんとおつきあいすることもないのだろう。眠れないことも眠りすぎることもなくて、生理さんではない違う何かとのおつきあいが始めるのかもしれないけれど、それは生理さんではない。そう思うとちょっとさびしい。かもしれない。
ありがとう生理さん。最後まで、どうぞよろしく。
ライター:神 敦子
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