Vol.13 奥歯が痛い
奥歯が痛い。
正確には、右の奥歯の周辺の肉が痛い。
数日前は、「あ、いたい」ぐらいであった。
風邪をひくと、免疫力が低下するので、治療済みの虫歯も炎症が起きて傷むことがある、とどこかでもっともらしい知識をもらったので、風邪のひきはじめなのであろうと思っていた。
それがもう、数日後には「いった、いった、いった」と呼吸のように口から自然ともれてしまうぐらいに痛い。もう、ずっと痛い。起きてから寝るまで、寝ている間もずっと痛い。一日中痛い。一日の切れ目がわからないぐらいに痛い。
奥歯周辺だけではなく、頬にひろがり、顎にまで痛みは及んで、顔の右半分が、うおー痛いーと叫んで凶暴化しそうなぐらいに痛い。
これは、巷で流行りの感染症か。でもなぜ右だけ。よくわからんけれど、そういう変異型なのか。そんな器用なウイルスがあるだろうか。
手遅れかもしれないが、とりあえず風邪のひきはじめの葛根湯を飲んで寝た。そうしたら、コーヒーを豆ごと食べたかのように目がひかひかして頭が冴えわたり、授乳でもないのに二時間ごとに起きあがって、気晴らしにトイレに行き、寝る前に読んだ「海街ダイアリー」の素晴らしさばかり考え続けて一夜を明かした。
感染症ではたぶんない。
仕方なく、歯医者に行った。
が、虫歯ではないと言う。
でも痛い。猛烈に痛い。一日の切れ目はないが、起き抜けが一番痛いように思う。
そういえば、こういうことは、前にもあった。
頬に発疹ができたかと思うと、顔の半分が突然ぴりっと痛み、起きても寝ても風が吹いても痛みは続き、皮膚科と内科と別の内科をはしごして、最終的に「帯状疱疹」だと診断された。
さらに、別の日、またしてもそういうことがあった。
「ぎゃ」っと叫ぶほど、突然頬がびりっと痛み、歯医者に行っても虫歯でないと言われる。耳鼻科にいっても副鼻腔炎ではないと言われる。ははあ、ついに「帯状疱疹」再発かと皮膚科に行ったが、それも違うと言われる。
たぶんねえ、「三叉神経痛」だと思いますよ。神経内科に行ってもらって、MRIで診断、本当に治したかったら手術ですね、と皮膚科の医師がへらへら言うのだが、なんだか恐ろしくなって怯んで帰った。
びりっと傷んだ頬は、日にち薬で治った。
そのどちらかに違いない。が、帯状疱疹にあるような発疹はない。ので、おそらく三叉神経痛が再発したのだろう。でもぴりも、びりもない。ネットでしつこく調べたところ、神経痛はやはりぴり、とか、びり、とかするものらしくて、こんなにも慢性的に「いった」と朝から晩まで叫ぶようなことはないらしい。
じゃあ、何か。温めればいいのか。冷やせばいいのか。もう全然わからないまま、万能薬だと信じているメンタムをぬり込み、「頬 痛い」「顔の半分 痛い」「奥歯のあたり 顎 痛い」「顔の半分 痛い 無理」「顔の半分 痛い どうにかしたい」と心のままに検索しつづけて、頬には筋肉痛があるという情報を得た。
頬の筋肉痛って。
それは、学生にありがちな「笑いすぎてほっぺた痛い、ひゃひゃ」みたいな平和なものではないのだろうか。それがこんなにも日常生活に支障をきたすほどの影響をもたらす力があるのだろうか。いや、これじゃないわーと読み進めていたのだが、「歯ぎしりや食いしばりのあるひとによくある」とある。
食いしばりは、時に、百キロの力がかかるとある。
これなのだろうか。
食いしばりは、ある。自覚は全然ないが、ある、らしい。
食いしばりのせいで、犬歯を折ったことがある。差し歯も折った。
食いしばり……。
わたしの食いしばりは、わたしの犬歯を折り、わたしの差し歯を折ってもまだ飽き足らず、わたしの頬と顎の筋肉から攻め上げ、果てはわたしの昼間の平穏な生活まで、徹底的に痛めつけようとしているのだろうか。
夜のわたしは、一体どれだけ激しく食いしばっているのだろうか。
わたし、どうしてそんなにも食いしばっているのか。
「ジキルとハイド」のジキル氏もこんな気持ちであったのだろうか。
帯状疱疹になったとき、「何か、ストレスでもあったのでは」と言われたが、新婚で義父母と初めて旅行した直後で、それであろうと思われる。新婚当初は、まだ気遣いが初々しかった。今は相当にふてぶてしい嫁になっているが。
三叉神経痛になったときは、子どもの役員関係で疲れていた。仕事内容はたいしたことなかったが、人間関係が面倒くさく、でもご近所だからなあ、まだまだ互いに引っ越さないしなあ、なんと言ったら角が立たないかなあ、などぐだぐだ考えていたら、頬にびりっときた。
そして今回である。
いや、犬歯を折った時からずっと、である。
思い当たることがなんにもないのである。
生きているから、ストレスはある。物価が高いとか、背中が痛いとか、白髪が増えたとかである。でもそんなことでいちいち歯を折っていたら、すでに総入れ歯である。
ただ夢の中で、よくものを食べる。最近は、ものすごく美味しそうなマカロンを食べようとして口にいれたのに、どうしても、どうしても、どれだけ力をいれて噛んでも食べることができなかった。腹がたって目がさめて、歯ぎしり防止用のマウスピースを口に入れていたことに気づいた。
百キロの力でマカロンを食べようとしていたのかもしれない。
とりあえず、筋肉をなだめるため、頬のマッサージに励んでいる。小顔効果もあるらしいので期待している。
ライター:神 敦子
神敦子#note#
https://note.com/jinatsuko
年齢とともに現れる原因不明の不調・・・
これが更年期ということなのか?と思うこともしばしばです。
かくいう私も、右の奥歯が痛いんです。
私も夢の中で100キロの力で何かを食べているんでしょうか。。。
とにかく一度歯医者に行ってみます!