Vol.43 中学三年生のための性教育を聴講する②

助産師の友人が、市から委託されて、保育園、幼稚園、小学校、中学校をまわって、性教育の講演をしているというので、聴講させてもらうことにした。
性教育といっても、いろいろあって、たとえばどこから命はやってくるのか、という「あなたたちが今、生きているということは、本当に奇跡的でとても素晴らしいことなのだよ」というお話とか。それから、今回わたしが聴講させてもらった「思春期の、おとなになるすこし手前の若者たちに、性とは何かを知ってもらう」そういう講座。
もうまったくイメージがつかん。
わたしの中の性教育、体育教師の「女性が気持ちよかったら女の子が生まれる可能性が高い」というほんまかどうかわからん知識しか残っていない。学校側に許可をいただき、保護者の方とご一緒に拝聴する。
しかし生徒二百人弱に対して、保護者の参加は三人のみ。わかる、わかるよ。子どもと一緒に性教育を聞くって、ちょっとはずかしい、なんとなく気まずい。だから先生、あとは任せた、ってなっちゃうよね!!お母さん、お父さん!!
まずね。
何から話がはじまるかといいますとね。
わたしと、あなた、違うよね。からです。
男子と女子じゃなくて、わたしとあなたです。
恋愛関係にもない、ただのわたしとあなたです。わたし以外のひと、あなた、です。
わたしは、こうしたい。あなたはこうしたい。それがかみ合わないことがあって、だからってどっちが悪いわけではない。どっちが正しいわけではない。ただ違うということを認識しなければならない、そういう話なんです。
わたしは、大好きだからハグしたい。え、わたしは、ハグはいや。ハグはいやだけど、あなたのことが大好きなことにはかわりないよね、です。
紅茶をね、飲みたいときと飲みたくないときとあるでしょ。いつも飲むからって、いつも飲みたいわけじゃないでしょ。紅茶をいれてもらったからって、飲むか飲まないかは、あなたの自由。あなたがいれた紅茶を飲んでもらえなかったからって、悲しむ必要はない、そういうときもあるのだから。
そういう話が、それはもう、ものすごく丁寧になされていくわけですよ。講座の半分ぐらいの時間を使って、子どもたち同士に寸劇をしてもらったり、意見を出してもらったりしながら、ゆっくりと大事に展開されていくわけですよ。子どもたちがどんな意見を言ってもいいんですよ、だって大事なのはあなた、なのですよ。あなたは大事なのですよ。大事なあなたの意見は、どんな意見でも大事なのですよ。そういう絶対的前提のもと、講座は進んでいくんですよ。
すごい。これ、同意の話ですよ!!
性的同意だけじゃなくて、ひととひととの尊厳の話ですよ!!
ぎゃああ、何だよ。令和の性教育ってすごいって、わたし感動しまして。そうか、わたしも大事なあなたなんだよなって、きゅんときたんですよ。お母さん、お父さん、あなたも大事なあなたですよ!!
もちろん性行為について、性感染症、避妊についての話もありますよ。
「これね、薬局で売ってるコンドームです。買ってきました。こういうパッケージで、こうなっています。開けますね。こうなっています。これを、勃起したペニスにくるくるっとつけますよ。大事なのはつけるタイミング。途中からつけるのはだめです。最初に、精子がでちゃうこともありますからね。正しいタイミングで正しく使用しないと、避妊することができません」っていう正しい知識を教えてくれます。
ね、こういうのをちょっと若くてかわいい女性講師が言うと、やば、とか、エロ、とかなめた学生がにやにや冷やかすような気がするじゃないですか。
まあ、今回は女子校だしな、だからヤジがないんだな、とおもいきや、友人いわく、誰も冷やかさない、なんなら男子の方が、真面目に誠実に聞いてくれるとのこと。
ていうか、待って。この講座。男女一緒に聞くのか。
「聞くよ。生理の話も、命の話も、男女一緒に聞くよ。小学生も高校生も同じように真面目に聞くよ。男の子も、生理の話で手をあげて質問するよ」
ぎゃああ、何だよ、令和の性教育って!!すごい!!クール!!
なんだかね。
置いて行かれてるのは、性教育らしい性教育を受けてこなかった、わたしたちじゃないのかもしれんって思いました。お母さん、お父さん、わたしたちですよ!! 子どもたちは、もうアップデートされていて、性について語るのはタブーだと思っているのは、わたしたちだけなのかもしれませんよ。きゃあああ、なんてこと。待って。置いていかないで。
それでも心配になりますよね。
ネットを開けば、薄気味悪いエロ広告がこれでもかと襲いかかってきて。蹴散らしても蹴散らしても、浮かび上がってくるじゃないですか。
わたしがかつて見たようなエロドラマとか、真夏のアイドル水泳大会ポロリもあるよ、みたいな下劣な番組も表向きは少なくなりましたよ、でもネットの海の、かなり浅いところを覗くだけでもエロ動画は大量にあって、簡単に好きなときに好きなだけ見れるようになりましたよね。ユーチューブでアニメを見ていただけなのに、気が付いたらエロ動画がおすすめにあがってきたりもしますよね。
漫画の性描写も、わたしの時代にはもっと明確にすみわけがあって、少女漫画誌さえ愛読していたら、性行為は知らないままでいられた。でも今は小学生だってエロ漫画を読むことができる。
「漫画の、コナンくん、あるでしょ。あれ、信じられないぐらい殺人事件が起こるでしょ。でもみんなは嘘だってわかっている。現実に、あんなことはないってわかっている。セックスも同じ。漫画や動画のセックスは、本当じゃないの。刺激的に描写したら、売れるから。再生回数が伸びるから。広告収入が得られるから。だから過激にしてあるの。コナンくんの殺人は嘘だってわかっているのに、どうして漫画や動画のセックスは本当のことだと思っちゃうひとが多いんだろうね」
こういうことを、友人が言ってて、ほんとにそれー、って思いました。
彼女が大病院の産科で勤務していた頃、十四歳の女の子が一回の性行為で、妊娠したそうなんですよ。相手はひとつ年上の、当時お付き合いしていた男の子で、女の子も敬語もつかえる挨拶もできる真面目な子で、内診台にあがるときにスリッパをきちんとそろえたことが、印象的だったと教えてくれました。
「お母さんと一緒に診察に来られてね、なんだかずっとお腹が痛くて、本当に便秘だと思っていたんですって。でも生理も来なくて、お母さんがもしやと思って診察に来られたときには、もう中絶ができる週数ではなかった。まさか。たった一回でって彼女も驚いていて。相手のご家族とも相談した結果、出産後すぐ養子に出すことになりました。出産まで、お腹で大事に育ててね、産まれたら、本当にかわいい赤ちゃんでね、やっぱり離れたくなくて、その女の子が泣くの。でも育てられないからやっぱり引き離さなくちゃいけなくて、でも産んだあとから、体って不思議でね、お乳はでるのね。赤ちゃんはいないけれども、お乳は出る。それをとめるための薬を処方するときに、いたたまれない気持ちになりました。女の子のお母さんがね、おっしゃるんですよ。うちの娘はこんなにも悩んで、心身ともにつらい思いをして、学校にも行けなくて、でも男の子の方は、何もかわらない。多少は悩んだかもしれない。けれども学校に行って、部活も勉強も励むことができる。こんな理不尽ありますかって。性行為については、ふたりの同意の元だったかもしれない。けれども、その結果について、さまざまなことを引き受けなければならないのは、やはりどうしたって女性なんです」
そうなんです。どうしたって女性です。
だから、女性は暗い道を歩くな。
だから、女性は自分の身を守れ。
というのは、わたしちょっと違うと思うんです。
でもね、「うん、そうだよ。違うよね」って思ってくれる令和男子が、きっと増えているんだろうな、未来は明るいなって、心強く思った帰り道でした。
* 講師はわたしの友人でもあり、「産後ケアハウス 杉原hare 」(神戸市)の代表、杉原真理さんでした。平易な言葉で「性とは何か」を子どもたちに語りかけてくれて、とてもすてきな講座でした。ありがとうございました。
産後ケアハウス杉原 hare
産後ケアハウス杉原 hare の公式サイトです。
https://harecare.jp
ライター:神 敦子
神敦子#note#
https://note.com/jinatsuko