Vol.45 妖怪「更年期」と明日も生きる

うちの庭をみてくださっている庭エキスパートの女性が、更年期のわるぐちを言いながら、ミモザをばっさばっさ伐ってくれた。
すべて。すべて更年期のせいですよ。(ばさっ)
めまいもほてりも太るのも鼻水も咳も便秘も頭痛も不安も冷えも不眠もすべて更年期のせい(ばさっ)、更年期がつらい(ばさっ)、つらいから病院に行かねばならず(ばさっ)、病院に行ったら金がかかり(ばさっ)、金のためには働かねばならず(ばさっ)、働くとしんどくてさらに更年期症状がひどくなる(ばさっ)、腹立つ(ばさっ)と、うちのミモザを、ミモザってこんなにも伐っていいもんなんですか、まあなんと思い切りのよい、とご近所から心配、賞賛、されるぐらいさっぱりと伐ってくれた。
そうなのだ。すべて太陽のせいではなく更年期のせいなのである。
40代のなかばから、「いつか更年期という妖怪がやってくる」と噂では聞いていた。
しかもヤツは、子分をたくさん従えていて、その子分をもってどんなふうに襲ってくるのかわからない。できれば気のいい子分妖怪に来ていただいて、交流はほどほどにして、早々にお帰りいただきたい。が、こちらは何も選ぶことはできない。そうこうしているうちに、妖怪さんたちはどうもおいでなさっているようで、気づけばがっちり絡まっておる。
現在わたくしの元にいらっしゃっており、わたしが存在を認識できる妖怪さんは、「やせない妖怪さん」と「不安増幅妖怪さん」である。
ちなみに「生理前いらいら妖怪さん」とか、「睡眠アンコントロール妖怪さん」とかは、更年期前からずっといらっしゃっている。
「やせない妖怪さん」がいらっしゃるので、やせない。やせないという次元ではない。微増している。微増し続けている。やせないぐらいならいい。微増も、まあいい。でも微増し続けているというのはよくないのではないだろうか。だって、し続けているんですよ。微だけれども増。そして続。ゴールはどこなの。どこを目指しているの。
「やせない妖怪さん」がいるから、まるく、ふくふくしい様子になっているはずなのに、一緒に「不安増幅妖怪さん」がいらっしゃるので、ぜんぜんふくふくしくない。見た目はふくふくしいけれども、心がちっともふくふくしていない。不安の増幅が、すごい。
ドーム球場とか。劇場とか。体育館とか。天井が高いところにいると、ひっぱられそうな気持ちになる。空が高いなと思った瞬間、タワマンを見上げた瞬間、巨大な指で頭をがしっとつかまれて、ぐうんと上に引っ張られ、果てまで落ちそうな感じになる。そのまま宇宙に吸い込まれる、永遠に宇宙空間をさまよいつづける、そういうなったらどうしよう、いや、なる。もうすぐなる。心臓ばくばく、手汗だらだら。ひとりスペースファンタジー。とりあえず立ち止まって深呼吸。そうしたら収まったり収まらなかったりするのだった。
わかっている。「不安増幅妖怪さん」は、わたしの脳が混乱しているだけなのである。だからわたしの脳を、わたしがどうにかすればいい。あんた騙されてるよって教えてあげればいい。そもそもわたし自身、騙されていることをわかっているのだから、騙されるわけはないのである。でもわたしの脳は、そこそこ頑固で、わたしがわたしの脳に「あんた騙されてるよ」って言ってあげても、「そんなの信じない」って拒否してくるのである。騙されていることをわかっているのに、騙される。騙されて不安になる。不安がふくれあがる。これ、意味わかんないっていう方は、永遠にわからないと思うのです。そうですよね、わからないですよね。わたしも「わたし、何言ってるんだ」って思いますもん。だから、そういうことあるんだ、へー、ぐらいで読んでいただければありがたく存じます。というか、これも更年期のせいなんだろうか。そんな何もかも更年期のせいなんて。と思わないでもないんですけどね、とつぶやいたら、「何甘っちょろいことを言っているんですか。すべて更年期のせいです」とミモザ庭師より。
それで。とりあえず寝ることにしました。
できるだけ寝る。とりあえず寝る。もうなにかっちゃ寝る。数分の隙間時間も寝る。寝ている間は、とりあえず寝ていられる。安上りでいい。ただわたしには「睡眠アンコントロール妖怪さん」がついているので、あまりよく眠れない。眠れなくていい。目をつむって横になっておく。その間は、不安に悩まされないですむ。明日のために何かをやっておくとか、丁寧に暮らすとか、筋トレとか、もういい。もうすべての余白を「寝る」に全振りする。オフィーリアのように横たわる。
本当はドラマとか見たいし、のんびりお茶とかしたいけれど、そういうのは更年期というトンネルを抜け出してからしてやればいい。生きていればいいじゃないか。わたしが。今日を。そんでもって、明日も生きていこうと思えればそれでいいじゃないか。寝てやりすごせるなら、どこまででも寝てやる。
そんなわけで、わたしが朝も昼も夜も早々とぐうぐう寝ているのは、決して怠けているのではなく、わたしが今日と明日を生きるために必要なことなのです。とわたしとかかわるすべての方々にお知らせしておきます。そしてみなみなさまにおかれましても、どうぞ睡眠、睡眠、眠れなくても横たわる、それをひとつしっかりと胸において、今日をやりすごしていただきたい。やりすごして生きる。生きましょう、生き抜きましょう。したたかに、しなやかに。そしていつか、すっきりとみんなで本当の夜明けを迎えましょう。
庭師さんにばっさりと切っていただいたミモザだが、あの強剪定が幻であったかのように、あおあおと葉をのばしている。けれども、つぼみがつかない。この時期は、いつもならちいさなつぼみをそこかしこにひそませていたのに。たぶんミモザも、すこしびっくりしたのだろう。だから今は、葉をのばすことだけに生きる力を注ぐと決めたのだと思う。
そういう時期が、あっていい。
ライター:神 敦子
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