Vol.14 首を鍛える

鍛えている。首を。

といったら、F1レーサーにでもなるのかと友達に言われた。首を鍛えるレーサーをドラマで見たらしい。

F1には別に乗りたくない。もっと切実に、もっと身近なものに乗れるようになりたい。

首を鍛えると、乗り物酔いが緩和されるらしい。

それで、鍛えている。

たとえば、新幹線とか。大胆な運転技術を披露するタクシーとか。電車の車両のはしっことか。何十分も並んで乗ったUSJのアトラクションとか。100分以上並んで、るんるんと乗り込んだ空飛ぶ椅子だったのに、ものの5秒で「あ、これは駄目なやつだ」と目を閉じて、アトラクションをやりすごさなければならないなんて、なんというせつなさよ。ときどき顔にぶしゅうと謎のしぶきや温風がかかるけれども、目を閉じているので一体何が起こっているのか、まったくわからず、ただがっくがっく揺らされて流れていく、あのむなしさよ。

もっと恐ろしいのは、公園のブランコに乗れなくなったことだ。

漕ぐまでもない。両足を地面につけて、座るだけでも酔う。あの微妙な揺れで、すでに酔う。頭がふらふらする。

ブランコ。あんなにも好きだったのに。ハイジごっこに興じた遠い日々よ。

首を鍛えるだけで、乗り物酔いが緩和されるらしい。

そんな話を小耳にはさみ、「いや、首を鍛えるって、なにそれ」と、ちょっと小馬鹿にしながら、手始めに首を左右に倒してみたら、ぎしぎしという。首が。

え。なんだ、この音は。

今度は、こわごわ首をまわそうとしてみたが、怖い。怖いのだ。首が落ちそうで。わかっていただけるだろうか。支えられないのだ、首が。頭を。頭が後ろにごろんと落ちそうなのだ。そんな動き、できないよ、と首が叫んでいるのだ。なので、手を頭に添えて、そうっとそうっとそうっと首をまわす。ぎいぎい。ぎいぎい。怖い。首が、何か喋っている。どうも、怒っているようだ。そんな重たいもの、支えるの、無理と怒っている。いや、そうは言ってもあなた。あなた首だから。首が頭を支えてくれないと、一体何が支えるのよ。肩ですか。肩で頭を支えるなんて、ドラえもんじゃあるまいし。ね、首さん、あなたしかいないのよ。なだめるように囁いてみたが、首はぎいぎい叫びつづける。

いつからこんなことになっていたのか。

肩こりを緩和させるために、肩甲骨をまわしたり、くびれをつくるためにねじったり、脚やせのためにふくらはぎをもんだり、鎖骨にリンパを流したり、そんなことはしてみたことはあったけれど、首に何かアクションを起こしたことはない。

それで、ようやく鍛えることにしたのである。首を。

といっても、やることは本当に地味で、ただ首をまわしたり、左右に倒したりするしかない。ラジオ体操でも、適当にされがちなこの動きを、毎日毎日するしかない。

まわす。たおす。まわす。たおす。

つまらんなあ。なんだこの、ゆるい動きは。首だけカタカタ動いて「困った困った」こまった人形みたいじゃないか。そんな人形が本当にあるのか知らないけど。わたしは鍛えたいんだ。裏切らない筋肉を首につけたいんだ。

しかしこんなゆるい動きでも続けてみるもので、気が付けば首は、ぎいぎいもぎしぎしもいわなくなり、頭がごろんと落ちるおそれも、どうもなくなってきたように思う。

それで調子にのり、さらなるステージに行きたくなった。首筋を腹筋のように鍛えようと考えたのである。

わたしの考案した首筋トレは、寝転んだまま首だけ持ち上げるというもので、それを仰向け、右伏せ、左伏せ、うつぶせのそれぞれ状態で、首だけを動かす。これが猛烈にしんどい。とくに右伏せ、左伏せの状態から首だけをあげるのは、本当に至難の業で、むぎぎぎぎと全力を首というか肩というか、そのあたり一体に集中させて行う。終わったら、へとへとになるので、ああこれは、ものすごくきいているのであろうと思っていたが、首筋トレを始めた数日後、猛烈に肩がこりはじめた。あれ、おかしいなと思ったその数日後に、右の奥歯が痛みはじめた。その数日後には頬とあご全体に痛みはおよび、「いった、いった、いった」と叫びながら、首筋トレどころではなくなった。

ああ、せっかくいい調子で首が鍛えられていたのになあ、歯ぎしりめ。

しばらくしてあごの痛みもひいた頃、またちょっと再開してみようかと、リビングで寝転びながら首筋トレをしていたら、「何やってるの!?」と偶然目撃した家族が驚きの声をあげた。

「そんなことしたら、首を痛めるに決まってるでしょ」

でも、首はいたくないよと反論したが、「首じゃなくても、首を守るために、その周辺の何かが痛くなるに決まってるじゃん」と言う。

たしかに。あごと頬が尋常ではなく痛い。肩も痛い。神経ではなく筋肉が痛い。こむらがえりがずっと続いているみたいに痛い。あごと頬がこむらがえるのか知らないけれども、そんな感じでものすごく痛い。

「いや、それ絶対そのへんな筋トレのせいだから」

もう二度とやらないようにと、家族一同から言われて今、地味な首まわし「困った」運動に戻したところ、あんなにも荒ぶっていたあごも頬も肩も穏やかである。

乗り物酔いが緩和されているのか、まだよくわからないが、最近ブランコは多少なら乗れるようになってきた。地味でゆるい動きであっても、やはり継続は力なりとみなさまに言いたい。

それから、わたしの頬とあごの痛みは、100キロの力でマカロンを食べたせいではなかったかもしれないことも、合わせて報告したいと思う。

ライター:神 敦子

神敦子#note#
https://note.com/jinatsuko

Vol.14 首を鍛える” に対して1件のコメントがあります。

  1. 代表取締役 宮前朋子 より:

    私も回してみました、首を。
    そしたらぎーぎー音がする!!
    嘘!なにこの音?!
    そして全然首を回せない!いつからこうなったのだろうか・・・
    年齢のせいにして諦めてはだめだなと痛感しました。
    神さんの頬とあごの痛みの原因、まさか!!ですね(笑)

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