Vol. 21　あなたがたのセックスを認める

「結婚とは、ふたりがセックスすることを公に認められるということである」

と上司が言うので、ぞぞぞとなった。昔、わたしが結婚などしていないもっと若い頃。しかも同僚の結婚式の席で。

「妻です」とか「夫です」とかひとに紹介されるたびに、「このふたりはセックスしているのだな」とこのひとは思うのか。自分の妻と歩くたびに「見よ、俺はこいつとセックスしているのだ」とこのひと思っていたりするのだろうか。

ぞぞぞ。

と思っていたら、「わたし、街で夫婦っぽいひとたちをみたら、このふたり（セックス）してるんだなとすぐ思っちゃう」という友達がいた。

そうしたら「わたしは、子連れの夫婦みたら、このふたりは間違いなく（セックス）したんだなと思う」という友達もいた。

そ、そ、そうなのか。

口に出して言わないだけで、「夫婦、イコール、セックスしているひとたち」と思ったりするひとは、結構たくさんいるものなのか。

子どもと歩いているだけで、「ま、お盛ん」と思うひとがいるのだな。

「結婚とは、ふたりがセックスすることを公に認められるということである」

これが、わたし思う以上に根深く世間にはあるのかもしれない。

結婚とは、そんなにもセックスをするという前提のもと行われるのだろうか。そんなものは、結婚しようとするふたりで決めたらよいように思うけれども。

セックスは結婚において、そんなにも重要事項なのか。

「セックスレス」で離婚しても、結婚条件に「セックス」はなくていいんじゃないだろうか。「性格の不一致」で離婚しても、国が定める結婚条件に「性格の一致」はなくていいだろう。一致しないのがむしろ楽しいような、パリピ的勢いで結婚したっていいだろう。

子どもが、セックス以外で授かることは、この時代たくさんある。セックスしたって簡単には授からないことを、わたしたちはかなしいぐらいわかっている。それに、結婚してもセックスしないことなんて、したくないことなんて、多々、多々、多々ありますよ、結婚生活が長く続けばなおさら。ねえ。

セックスはあればいいというものではない。すればいいわけではない。

好きだからするというものでもない。嫌いだからしないというわけでもない。好きとか嫌いとかなくても、性欲はある。性欲はないけれども、好きも嫌いもある。

親とだって友達とだって、知識も優しさもある専門家にだって、セックスのことを話すのは難しくて、複雑で繊細な問題を孕んでいるというのに。

結婚したいふたりのセックス事情など、そっとしておけばいいじゃないか。するもしないも自由じゃないか。いや、そういうわけにはいかないのだ。結婚するということは、セックスをするということなのだ。ふたりのセックスを公に認めるか否かが、結婚の条件なのだ、と思うひとが一定数いるのだ。

ひょえー。

わたしも、もうずいぶん前に結婚というものをしたのだが、結婚に伴って得た種々の権利のひとつに、「あなたがたのセックスを国が認めますよ」というものが、あったのかもしれないと、いまさら思ったのである。セックスレスが、離婚理由として認められるということは、なるほど、そういうことなのかもしれん。

あなたのセックス、国が守ります。ほう、そうか。

ありがたいですよ、法的に配偶者の不貞行為を裁いてもらう権利を得るのだから。

でも、わたしがセックスする権利を、国が認めるって。知らない間に国のお墨付きをもらっていたわたしのセックスって。わたしのセックスの一体何が。わたしのセックスを、わたしでさえ明確に語ることができないというのに、わたしのセックスの何を評価して、「きみのセックスはありだ」と国は認めてくれたのか。

わからん。

認可済みのセックスってなんだ。

セックスに認可がおりると、急に「いやだな」と思うのはなんでなんだろ。

国の管理下に自分のセックスがあると思うと、なんというか、なえる。

でもそれとは別に、早く自分のセックスに認可がおりてほしい、と切実に思う気持ちも、わからないでない。みちならぬセックスであったり、相手の気持ちがわからないままのセックスであったり、そういう場合には、国の認可の元、自分たちの行為を確固たるものにしたい、という思いも出てくるかもしれない。いや、その場合はふたりでもっと話し合うべきではないだろうか、セックスをする前に。

そもそも認可できないセックスというのは、なんなのだ。

きみは、もう認可申請済みなのだから別のひととはしちゃだめだよ、というものか。ならわかる。じゃあ、未認可同士の、あるいは認可を解消したものの申請であれば、法的にも婚姻が可能な年齢の人同士であれば、必ず認めてくれるのか。

睡眠のように。食事のように。セックスは大事な営みでしょう。

でももし、思いあうふたりの結婚を反対する理由が、「きみたちのセックスは不自然だから」とするならば、それはいかがなものでしょうか。

自然なセックスとはいかなるものか、性教育に消極的なこの国は、一体いつそれを教えてくれるのでしょう。

いいじゃないか、誰が誰とキスしてハグしてセックスしても。ひとのセックス事情なんて、当人同士が困っているという話でもなければ、首をつっこむ必要もない、余計なお世話じゃないか。

同性婚について、そんなことを思うのである。

ライター：神　敦子

神敦子#note#
https://note.com/jinatsuko