Vol.24 イチブンノイチ。イッシュウネン。

第23回女による女のためのR-18文学賞 友近賞受賞 神敦子さん(右)

コラムを書かせていただいております神敦子です。

ジンアツコとよみます。悪目立ちする名字なので、なんだか馴染めないとずっと思っておりましたが、歳をとって、旧姓をすこし好きになりました。

なんのご挨拶もせず、長い間お目汚しいたしました。いつも拙文をお読みいただき、感謝申し上げます。

2023年の春先、宮前さんから「フェムケア・フェムテックのお店を出したい」と伺ったとき、そもそも「フェムケア」も「フェムテック」という言葉も存じませんでした。なんという不勉強。

女性の外陰部をお手入れする。女性特有の健康課題を技術で解決する。

ほお。なんだかせめたコンセプトのお店だな。いや、せめてないのか。よく考えたら外陰部だからって、何も特別なことじゃないのかもしれない。顔や髪や肌のお手入れをするように、外陰部のお手入れだって特別なことではないのかもしれない。そんなことを思いました。

ものを売りたいだけじゃない。

それを語る場をつくりたい。

それを語ってよいのだとみんなに思って欲しい。ひそひそとではなく堂々と。

たったひとつしかない自分の体を、まるごと大事に思って欲しい。

大事にしてよいことを、わかって欲しい。

生きやすくなるためのたくさんの選択肢が、この世界にあると気づいて欲しい。

ああ、それが宮前さんがお店を作る理由なのだなと知って、なんだかじーんと致しました。

それからしばらくして、「コラムを書いてほしい」と依頼をいただきました。

なんでもよいとのことでしたが、やはり性について書くのがいいだろうと思ったものの、性について。性ってなんだ。わたしは女性であるけれども、ジョセイナラデハノカンセーを求められたら、何か違和感がある。だから女性うんぬんではなく「ひと」として生きたいとずっと思っていたのです。

でもわたしはどうしたって女性で、女性として生きてきて、この先もたぶん女性として生きていく。わたしの性がなんであるのかは、わたしが思う以上にわたしの生とつながっているのかもしれなかった。努力不足だったからではなく、タイミングが悪かったからではなく、相手の機嫌がその瞬間悪かったわけではなく。ただ女性だったから、女性であるとみなされたから、そうなったことが、たくさんあったのかもしれなかった。

悲しかった。悔しかった。嬉しかった。そういうことを書きたいなと思いました。気負わず。そういえばといった具合に。たとえば、放課後の教室でこっそりお菓子を食べながら、いつまでも帰れなかった高校生の時みたいに。バス停で隣同士に立っただけの知らないひとと、ぽつぽつと喋るみたいに。子どもを遊ばせながら、ママ友たちと話した晴れた公園みたいに。

はははと笑いながら話しているので、はたからみたら子連れおばちゃんたちが集ってのんきに騒いでいるだけに思うだろうけれども、生理がフィナーレをむかえそうだとか、性の営みが辛いとか、生理前の情緒不安定がコントロール不能とか、そんな「デリケート」と分類されそうな話がおおらかに繰り広げられていた、あの昼下がりみたいに。

最新のデータを盛り込まず、お役立ち情報を提示することもない、本当にただの賑やかしコラムでありますのに、それでも置いていただき、読んでいただけるのは、本当にありがたいことです。

会わないけれども会わないだけ、というような大切な友だちが遠くの町にいる、その方に届ける、そんな気持ちで書いております。

どんなふうに暮らしていらっしゃるのかな。

お元気でいらっしゃるかな。忙しい中で、楽しいと思う瞬間があるといいな。

そんなふうに思いを馳せたり致します。

何歳であるのか。どんな環境で暮らしているのか。どんな性を抱えているのか。

未婚か。既婚か。ひとりぐらしか。家族と住んでいるのか。

子どもはいるのか。欲しいのか。もういないのか。

仕事はしているか。介護は。育児は。貯金はあるか。

持病があるのか。ないのか。体の不調に不安はないか。

親とどんな仲を築いてこられたか。パートナーとは、友達とは。

寄りあうことが苦手であるひとは、実は多いんだよなあと思うこともあります。

環境が違って、その違いを比べてしまって、あのひととはわかりあえないと思うことはあるでしょう。ひとりの方が気楽だと思う瞬間は、わたしにも多々あります。無理してすりよる必要は全然ないんです。それは本当に。ひとりでなんでも立ち回れるのはすてきなことです。

でも手をとりあえるところはとりあって、理不尽なことに立ち向かっていけたら。そっと声をあげることで、「わたしも」と思わぬところに響くことがあって、もしかしたらびっくりするぐらいに遠くまで行けたりするのかもしれない。

どんな性であっても、どんなふうに生を受けても、どんな体であっても、たったひとつの大切な人生を諦めないでほしい。

そんなことを思いながら、拙いながらも書いております。

どうぞ今後とも、お付き合いいだければ幸いです。

それから。

わたくしごとではありますが、このたび「女による女のためのR18文学賞」友近賞をいただきました。(大賞を受賞された広瀬りんごさんの「息子の自立」が、障がい者の性風俗がテーマの短編で、とても読み応えがあります。ぜひご一読いただきたいです。)

「女による女のための」ってなんだ、そんな「女」らしい賞にふさわしいもの、とても書ける気がしないと、ずっと敬遠していた賞でした。

コラムの話をいただかなければ、応募をすることもなかったと思います。そこにずっとあって、あることは知っていたのに押すことのなかった人生のスイッチ、それを初めて押した、押すきっかけをいただいた、そんなふうに思っております。

末筆ではございますが、あらためまして、一周年、おめでとうございます。

未来の老舗になるといいね、というのは宮前さんとわたしの共通の友人の言葉ではありますが、本当に。

イチブンノイチが未来の老舗になりますように。

そして。

かけがえのないみなさまおひとりおひとりの人生が、いろどりゆたかなものになりますように。

これからも応援しております。

ライター:神 敦子

神敦子#note#
https://note.com/jinatsuko

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